豪州游記

シドニーでワーキングホリデー

party

 クラスメイトのタイ人の女の子が屈託のない笑顔で話しかけてくる。

 「〇〇、明日はパーティだよ!」

 「おお!そうなんだ。何時?」

 「ん~。アイドンノウ」

 「そうなんだ。どこでやるの?」

 「ん~。アイドンノウ」

 「誰が来るの?」

 「アイドンノウ。私は行けるかわからないんだ!」

 パーティとはなんであろうか。これほどまでに侮辱されてはジーニアス英和辞典で調べざるを得ない。

 

 party 名詞(複数―ties)

 ①パーティ、社交的な会、集まり、宴会

 

 この①の意味で使われたと考えて間違いはないだろう。すると明日にパーティが開かれることが決定しているようだ。しかしwhenとwhereとwhoとwhatとwhyとhowの5W1Hは決定していない。

 相手が日本人であったら喧嘩になっていただろう。「時間ぐらい決めてから言わんかい」と私が言う。相手は激昂するであろう。「せっかく誘ってやったのにその言い方はなんだ」「なんだとはなんだ」「なんだ」「なんだなんだ」「どうしたどうした」「おいおいなんだなんだ」「なんだ!」「なんだなんだ?」「なんなんだ?」「なんだっていうんだ!」「なんだ?」

 しかしここは語学学校である。文化の異なるインターナショナルスチューデントs(複数形)が、たどたどしい英語でコミュニケーションしている。意思の疎通が多少上手くいかなかったぐらいで「What?」などと言ってWhatWhatの応酬となるようではグローバル社会に適応できない。微笑みの国から来た彼女はピンクのロングTシャツを着ている。胸元には英語でparadise、その下にカタカナでパラダイスとプリントされている。彼女は親日家なのだ。楽園というのもいい言葉だ。でもその服はダサいから捨てたほうがいいと思う。

 

 次の日はそのタイ人と美味しいタイ料理の話をした。ナシゴレンが好きだと言ったらそれはタイ料理ではないと言われた。トムヤムクンの名前を出したらそれはタイ料理だと喜んだ。でもトムヤムクンはたいして好きではないのでどうでもよかった。タイには日本料理のレストランがあるけどとても高価で、ギョーザが美味しいと褒めていた。ギョーザが日本料理なのかどうか悩んだが、焼きギョーザはもはや日本料理と言っても過言ではないと自分を納得させた。パーティの話は一度も出なかった。