豪州游記

シドニーでワーキングホリデー

sea urchin

 サプライヤー(供給業者)が生ウニを持ってきました。親日のタイ人女トラックドライバーは、タイ人らしい愛想の良さでご機嫌に段ボールを運んできました。

「ウニー!」

「オー、ウニー?」

「イエス!ウニウニ~♪」

 満面の笑みと東南アジアの陽気なテンションにつられて、こちらもウニウニ言いたくなってきました。

「ウニ~♪」

「HAHAHA、ウニウニ~♪」

「ウニウニ~♪」

「ウニウニ~♪」

 一通りウニウニダンスを楽しみ、手を振って帰って行きました。僕は29歳、タイ人は30歳です。

earphone

 イヤフォンが片耳だけ断線しました。スペアはありますが、家で使う用と外出用と2つ持っておきたいのでみんな大好きKマートに買いに行きました。

 Kマートは生活雑貨が格安で手に入るチェーン店で、日本でいうとドン・キホーテプライベートブランド商品が多いバージョンと考えればわかりやすいかと思います。ちなみに私が今履いているパンツは一枚2ドル(1ドル85円)のKマートブランドであり、私が今履いている靴下は三足2ドルのKマートブランドであり、私が着ている寝巻は上下そろって10ドル未満のKマートブランドであり、仕事とジョギングで履いている靴は一足15ドルのKマートブランドであり、外出時に着る半袖シャツは一着9ドルのKマートブランドであり、仕事時に着ている汗が乾きやすいスポーツポロシャツは一着5ドルのKマートブランドであるわけです。なのでそこまで頻繁に利用しているわけではありません。

 オーディオコーナーで値札を見て、眼球が螺旋状に捻じれながら飛び出ました。イヤフォンが2ドル!「やすすすす、やすすすすす」と言いながら急いでレジに持っていきました。

 さすがは大正義Kマート。イヤフォンが2ドルで買えるとは!喜び勇んで今日一日使用してみたうえでの、イライラを箇条書きにします。

 

 ・左右を示すLとRが書かれていない。それぞれが逆方向に捻じれているなど、左右の違いもない。よって、耳に挿して音楽を聴いて、違和感を感じて付け替えるしかない。

 ・イヤホンジャックに差し込むと、二回に一回マイクとして認識されて「さあ、グーグルで質問してみよう!ピコポン!」になる。

 ・特定の角度にすると片側しか聞こえなくなる。例えば手で握っていると、腕を足方向ないし後方に振った時は問題ないが、前方に振った時に右ないし左が(これも右と左のイヤフォンが合っているかわからないのでどちらかもわからない)一時的に聞こえなくなる。よって歩きながらも握っている方の腕を足方向と後方にしか振れない。すると連動して反対側の腕は足方向と前方にしか振れなくなる。この腕の振りで歩くと左に大きく旋回することになるので、大きな左回りの円を描き続けることとなり、永遠に目的地に辿り着けない。また、例えば左の後ろポケットに入れると、左足を上げた時に右ないし左が(これも右と左のイヤフォンが合っているかわからないのでどちらかもわからない)一時的に聞こえなくなるので右足を上げて前方におろし、また右足を上げて同じ場所におろすことしかできない。よって一生目的地に辿り着けない。

 ・ドラムの自己主張が激しい

 

 2ドルなら音質などには期待してませんでしたが、まさかここまでクオリティの低いイヤフォンが製造できるとは思いませんでした。私の想像力が足りなかったということでしょう。哀れなわたくしめはイヤフォンを外し、脳内BGMでスパイスガールズを口ずさむしかありません。ヨーテユワツアウォンワッアレリレリワン ソーテミワチュウォンワチュレリレリワン アテユワツアウォンワッアレリレリワン ソーテミワチュウォンワチュレリレリワン アワナ(ハッ)アワナ(ハッ)アワナ(ハッ)アワナ(ハッ)アワナレリレリレリワナジガジッガー

 まぁ2ドルならしょうがない…などという寛容性は持ち合わせておりません。俺の2ドルを返せこのぼったくりの悪徳商法闇市の詐欺師のキャッチバーの押し売りめがとクレームを入れたいですが、そこまでの英語力はなく。無言の抗議として、これから先Kマートではパンツと靴下と靴とシャツとポロシャツ以外のものを買うことはないでしょう。

strike

 シドニー鉄道のストライキ予告により、本日は内勤スタッフがほとんどオフになっていました。仕方がないので倉庫スタッフの私と一人の社員で食品工場内部の掃除を手伝うことになりました。

 まかないの余ったカレーを袋詰めせねばなりませんが、二人ともパッキングマシーンの使い方をよく知りません。「一応汁ものですから、圧を変えなきゃいけないんですかね?」「大丈夫じゃない?ガハハハハ」パッキングマシーンはカレーまみれになりました。

 「あーあ、溢れてる溢れてる、ワハハハハハハ」「だから言ったじゃないですか。ウワハハハハハハハハハハハハ」

 腹を抱えて笑いながら、紙タオルを持ってきました。拭くと拭いた方向の床にポタポタと垂れていきます。床は先ほど内勤の人が清掃したばかりです。

 「床がカレーまみれになってしまいましたギャハハハハ」「これはいかん。拭けば拭くほどのびるぞ。ギャハハハハハハハハ」

 ウ●コみたいだキッタネーとはしゃぎながら辺り一面をカレーまみれにしていると、内勤の人が外掃除から戻ってきました。ポンコツ二人が自分のテリトリーをカレーまみれにしているのを見て、悲しい顔をしました。

 「ゴメスゴメス。パッキングマシーンがカレーまみれになって、頑張ったら床もカレーまみれだよ。ワハハハハハハ」「ラミレスラミレス。よかれと思ったのですが、パッキングマッシーンがご機嫌ナッナーメでしてね。ヘラヘラヘラ」

 内勤スタッフは肩を落としてパッキングマシーンを掃除し始めました。私と社員は右の脇腹を押さえながら、ウヒヒヒヒ、ウヒヒヒヒ、と笑い続けました。

 

 ストライキは六週間後に延期だそうです。

shochu

 日本食レストランで久しぶりに焼酎を飲むと大いに酔っ払い、電車の窓際席でウトウトと微睡みガラスに頭をぶつけて目を覚ます工程を20回ほど繰り返したところで最寄り駅に着きました。

 スーパーに寄ると、オレオを1パック買ってポリポリ食べながら家に帰りました。

 すぐさまフライパンと鍋を取り出しました。まず鍋に水をはり、ラーメン用に沸かし始めます。その間に和牛を一口サイズに切り、玉ねぎはみじん切りにします。刃先を固定して中心とし、刃尻を半円を描くように少しずつ動かしながら玉ねぎを刻んでいく感覚は残忍かつアイロニックでたまりません。これらを混ぜたものを炒めます。その間沸いた湯の中にインスタントラーメンを投入します。炒めもののかたわら、麺をたまにほぐしておきます。よき頃合いを見計らって、鍋に卵を入れて蓋をしてしまいます。あとは火力と吹きこぼれに注意です。卵が半熟に煮えたのを確認して、粉末スープを軽く溶いておいた丼に入れてしまいます。卵が崩れないように軽く混ぜて、塩のみで味付けした炒めものを載せます。肉と玉ねぎと卵入りの味噌ラーメンが完成しました。作り終わったとき、僕は気付きました。「いらないな」

 それでも半分ほど食べて、ヌードルに対するヘイトが充分に増幅したところで、僕は途方に暮れてしまいました。「どうしたらいいんだろう」

 キッチンに流すとキッチンが詰まってしまいます。スーパーのビニール袋に注いでみました。下からボタボタ垂れています。「嘘だと言ってくれ」もう一袋追加し、二重にしてみました。まだ垂れています。「嘘だと言ってくれ」三重でも心許なく、四重でようやく安心を勝ち取ることができました。

 酔った時特有の夢ばかりみる浅い眠りから時々覚めてトイレに行き、また浅く眠るを繰り返していたら朝になりました。昨日スーパーに寄ったのに朝食を買っていないのに気づきました。仕方なく空腹のまま仕事に向かうため家を出ると、早朝の通りを白人の自転車集団が通って行きました。一人がこう叫んでいます。

 「なんでこんなファッキンモーニングからこいつらとファッキンサイクリングしなきゃいけねえんだよ」

 日本は今寒いのかな、と私は思いました。

toilet

 駅のトイレは身体の不自由な人専用のところしか空いてませんでした。何とかonlyみたいなことが書かれているので、素直に普通のトイレの前に並んで待つことにしました。

 改札の方から来た白人のおじいさんが、僕の方を見ながら身体障害者用トイレのドアを開けました。そして手招きをして、ここを使えと言ってくれています。俺は並ぶから、お前が先に使っていいぞと。「オーセンキュー」と礼を言うと、満面の笑顔で「ノーウォーリー」。

 心の広い、余裕のある暖かいおじいさんでした。僕もこのような歳の取り方をしたいものだ。好意に甘え、ありがたく使わせてもらいました。出たところをサモア系の駅員に怒られました。

wagyu

 工場では食品の加工を行っているため、余った食品を持ち帰ることができます。特に和牛の加工が多いため、切り落としを大量持ち帰っています。

 キッチンで遭遇したフラットメイトが話しかけてきます。

 「料理は面倒ですよね。いつも何を食べているんですか?」

 「お金が無いので、毎日和牛ですよ」

 食器を洗っていたフラットメイトは、何とも言えない表情で部屋に帰っていきました。

japan

 「どんな食べ物が好きなんだ?」

 「そうですねえ、シーフードが好きですね」

 「ホッカイドウに行けばいいじゃないか。行ったことあるか?」

 「子供の時に行ったぐらいで、あんまり覚えてないですかね」

 「なぜ行かないんだ。ウィンタースポーツもできるのに」

 「いやあ、僕、スキーとかは苦手で。神奈川というあまり雪の降らない地方で育ったもので」

 「ナガノが近いじゃないか」

 

 語学学校の先生は一度も日本には行ったことがないそうです。