豪州游記

シドニーでワーキングホリデー

movie

「週末は何してたんだ?」

「ん~…特に何も…。家で映画を観てましたね。」

「ほう、なんの映画だ?」

 先月まで通っていた語学学校の担任は、映画好きな人でした。僕が観た映画は北野武ソナチネでした。さすがに日本映画は知らないだろうと思い、曖昧に「日本の監督タケシ・キタノの映画ですよ」と答えておくことにしました。

 ポーランドの血が入っているらしいこの担任は、威圧感のある細長い顔でニヤリと笑い、流暢な英語でまくしたててきました。

「タケシ・キタノか。もちろん知っているぞ。俺は座頭市を観た。ブラインド・ソードマンの話だな。最近だとゴースト・イン・ザ・シェルにも出ていただろう。あれは日本のアニメが原作なんだよな。で、何を観たんだ?ソナチネ?それはまだ観ていないな。面白いのか?ファンタスティック!」

 アイスチョコレート(日本ではココアと呼ぶ)を一口飲んだ彼は、真っ直ぐに私の目を見つめ、断言するように言いました。

「だが、やはりアキラ・クロサワが最高だ」

 おたくが趣味の話で早口になるのは、どこの国でも変わらない…

 

damage

 工場の倉庫スタッフとして働き始めました。主に商品管理を担当しています。

 今朝、出社すると社員が困り顔で話しかけてきます。曰く、納品時に配送スタッフが商品の入った段ボールを落としてしまったようです。中身が傷ついていないか、整理するときに確認してほしいとのこと。

 「落とした段ボールは、ちゃんと一目見てわかるようにしてあるから。配送の人がダメージって箱に書いてたから。すぐわかるよ」

 朝のルーティンワークを終えて、件の段ボールを確認しに行きました。一目瞭然、マジックで太く何箇所も文字が書かれています。

 「dameji dameji! dameji? dameji」

 dameji…私は段ボールを丁寧に開け、中身を確認しました。dameji…特に損傷はなく、廃棄の必要はなさそうです。dameji…綺麗に入れ直し、テープで補強しました。dameji…チェック済みなことを表すために、damejiの文字を横線で消しておきました。dameji…dameji…一日中、この言葉が脳裏から離れませんでした。dameji…dameji…dameji…

 後で聞いた話、配送の人は英語があまり得意でないそうです。

free drink

 駅でフリードリンクを配っていました。これはラッキー。愛想良く「センキュー」と礼を言いながら受け取りました。


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cucumber&mint with green tea

『キュウリとミント味の緑茶』

 

 味を表現するとしたら、「歯を磨いた後にキュウリの漬け物を入れておいたプラスチック容器を洗わずに出涸らしの薄い緑茶を淹れて飲んだ味」でした。すぐさま蓋を閉めてゴミ箱に投げ込みました。ゴミ箱は、同じ商品の同じく一口だけ飲んだであろうもので溢れています。狂っているのは僕の舌ではないようで安心しました。僕は口直しに水を買わねばなりませんでした。

 

教訓:タダより高いものはない

rain

 シドニーに来てから一カ月半ほど経つが、本格的な雨に降られたのは今日が初めてだ。いつもは小雨で、しばらく待てば止んでしまう。

 そのようなわけで、傘など買う必要もなかった。今回初めて必要に駆られたのである。しかしホームセンターに行っても傘の売り場がなかなか見つからない。そういえば傘をさしているオージーは半数程度だった。濡れても家でシャワーを浴びて着替えれば良いだろうという考えなのであろうか。

 虚弱なジャパニーズたる私は店員にウェアーイズアンブレラと尋ねて案内してもらった。濡れて風邪をひくよりは、傘を買った方がいいと思ったからだ。

 日本では一般的であるビニール傘などはなかった。何故か折り畳み傘が一番安くて10ドル。普通の傘は15ドルだった(1ドル約85円)。「濡れても家でシャワーを浴びて着替えれば良いだろう」また一歩オーストラリアに馴染めた一日であった。

wash

 近隣を散策していると、このような看板が目に入りました。


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 ガソリンスタンドの一角にこのようなコーナーが…洗車のついでに洗犬もしてしまおうということでしょうか。

 あいにく犬を飼っていないため、試してみることができません。シャワーが壊れたら利用してみたいと思います。

 

golf

 近隣を散策していると、このような看板が目に入りました。


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『all we slice is the price』

『私たちがスライスするのは値段だけです』

 ゴルフのスライスとかけているわけですね。値段をスライスするというのはイメージしにくいですが、ディスカウントのことでしょう。英語のこういう言い回し、好きです。

One day

 ワーキングホリデーで来豪している男の、とある一日を記録してみましょう。

 

 8:00AM 起床。コーンフレークにバナナを添えて、ミルクをたっぷりかけて食べる。

 9:00AM ジョギングに行く。ついでに近隣の地理を研究する。youtubeで落語を聞きながら。

 11:00AM 洗濯機を動かしている間に昼食の用意。余っていたレタスを手でちぎって軽く洗う。乾麺を茹でて焼きそばにする。

 12:00PM 洗濯物を干す。オーストラリアは日差しが強いのですぐに乾く。しかし唐突に雨が降ることも多い。何かを得るためには、何かを犠牲にせねばならないことを学ぶ。

 1:00PM スーパーに買い物へ。オレンジジュース、牛乳、卵、ベーコンなどをセルフレジで購入。おやつ用に値下げされたチキンを狙っていたが、持ち前の吝嗇さを発揮して断念。

 4:00PM 語学学校で知り合った日本人の友達の手伝いで皿洗いのバイトに行く。雑談を中心とした業務。現地の情報やら外国人の悪口で大いに盛り上がる。

 9:00PM 帰宅し、日本人のシェアメイトたちと晩御飯を食べながら雑談。現地の情報やら外国人の悪口で大いに盛り上がる。

 11:00PM シャワーを浴び、ニコニコ生放送を観ながら就寝。放送主が視聴者と出会って炎上していた。とりあえず「引退しろ」とコメントを連投しておく。

 

 以上を読んで「英語を使ってねえじゃん」と考えた人は判断力と想像力と推察力が欠落している。スーパーで肩が当たってしまったときに、ちゃんと「Sorry」と言っている。