豪州游記

シドニーでワーキングホリデー

toilet

 駅のトイレは身体の不自由な人専用のところしか空いてませんでした。何とかonlyみたいなことが書かれているので、素直に普通のトイレの前に並んで待つことにしました。

 改札の方から来た白人のおじいさんが、僕の方を見ながら身体障害者用トイレのドアを開けました。そして手招きをして、ここを使えと言ってくれています。俺は並ぶから、お前が先に使っていいぞと。「オーセンキュー」と礼を言うと、満面の笑顔で「ノーウォーリー」。

 心の広い、余裕のある暖かいおじいさんでした。僕もこのような歳の取り方をしたいものだ。好意に甘え、ありがたく使わせてもらいました。出たところをサモア系の駅員に怒られました。

wagyu

 工場では食品の加工を行っているため、余った食品を持ち帰ることができます。特に和牛の加工が多いため、切り落としを大量持ち帰っています。

 キッチンで遭遇したフラットメイトが話しかけてきます。

 「料理は面倒ですよね。いつも何を食べているんですか?」

 「お金が無いので、毎日和牛ですよ」

 食器を洗っていたフラットメイトは、何とも言えない表情で部屋に帰っていきました。

japan

 「どんな食べ物が好きなんだ?」

 「そうですねえ、シーフードが好きですね」

 「ホッカイドウに行けばいいじゃないか。行ったことあるか?」

 「子供の時に行ったぐらいで、あんまり覚えてないですかね」

 「なぜ行かないんだ。ウィンタースポーツもできるのに」

 「いやあ、僕、スキーとかは苦手で。神奈川というあまり雪の降らない地方で育ったもので」

 「ナガノが近いじゃないか」

 

 語学学校の先生は一度も日本には行ったことがないそうです。

movie

「週末は何してたんだ?」

「ん~…特に何も…。家で映画を観てましたね。」

「ほう、なんの映画だ?」

 先月まで通っていた語学学校の担任は、映画好きな人でした。僕が観た映画は北野武ソナチネでした。さすがに日本映画は知らないだろうと思い、曖昧に「日本の監督タケシ・キタノの映画ですよ」と答えておくことにしました。

 ポーランドの血が入っているらしいこの担任は、威圧感のある細長い顔でニヤリと笑い、流暢な英語でまくしたててきました。

「タケシ・キタノか。もちろん知っているぞ。俺は座頭市を観た。ブラインド・ソードマンの話だな。最近だとゴースト・イン・ザ・シェルにも出ていただろう。あれは日本のアニメが原作なんだよな。で、何を観たんだ?ソナチネ?それはまだ観ていないな。面白いのか?ファンタスティック!」

 アイスチョコレート(日本ではココアと呼ぶ)を一口飲んだ彼は、真っ直ぐに私の目を見つめ、断言するように言いました。

「だが、やはりアキラ・クロサワが最高だ」

 おたくが趣味の話で早口になるのは、どこの国でも変わらない…

 

damage

 工場の倉庫スタッフとして働き始めました。主に商品管理を担当しています。

 今朝、出社すると社員が困り顔で話しかけてきます。曰く、納品時に配送スタッフが商品の入った段ボールを落としてしまったようです。中身が傷ついていないか、整理するときに確認してほしいとのこと。

 「落とした段ボールは、ちゃんと一目見てわかるようにしてあるから。配送の人がダメージって箱に書いてたから。すぐわかるよ」

 朝のルーティンワークを終えて、件の段ボールを確認しに行きました。一目瞭然、マジックで太く何箇所も文字が書かれています。

 「dameji dameji! dameji? dameji」

 dameji…私は段ボールを丁寧に開け、中身を確認しました。dameji…特に損傷はなく、廃棄の必要はなさそうです。dameji…綺麗に入れ直し、テープで補強しました。dameji…チェック済みなことを表すために、damejiの文字を横線で消しておきました。dameji…dameji…一日中、この言葉が脳裏から離れませんでした。dameji…dameji…dameji…

 後で聞いた話、配送の人は英語があまり得意でないそうです。

free drink

 駅でフリードリンクを配っていました。これはラッキー。愛想良く「センキュー」と礼を言いながら受け取りました。


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cucumber&mint with green tea

『キュウリとミント味の緑茶』

 

 味を表現するとしたら、「歯を磨いた後にキュウリの漬け物を入れておいたプラスチック容器を洗わずに出涸らしの薄い緑茶を淹れて飲んだ味」でした。すぐさま蓋を閉めてゴミ箱に投げ込みました。ゴミ箱は、同じ商品の同じく一口だけ飲んだであろうもので溢れています。狂っているのは僕の舌ではないようで安心しました。僕は口直しに水を買わねばなりませんでした。

 

教訓:タダより高いものはない

rain

 シドニーに来てから一カ月半ほど経つが、本格的な雨に降られたのは今日が初めてだ。いつもは小雨で、しばらく待てば止んでしまう。

 そのようなわけで、傘など買う必要もなかった。今回初めて必要に駆られたのである。しかしホームセンターに行っても傘の売り場がなかなか見つからない。そういえば傘をさしているオージーは半数程度だった。濡れても家でシャワーを浴びて着替えれば良いだろうという考えなのであろうか。

 虚弱なジャパニーズたる私は店員にウェアーイズアンブレラと尋ねて案内してもらった。濡れて風邪をひくよりは、傘を買った方がいいと思ったからだ。

 日本では一般的であるビニール傘などはなかった。何故か折り畳み傘が一番安くて10ドル。普通の傘は15ドルだった(1ドル約85円)。「濡れても家でシャワーを浴びて着替えれば良いだろう」また一歩オーストラリアに馴染めた一日であった。